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インク一滴

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見ること。


なかなか逢えない日々が続いていたが、
仕事で一区切りがついたら居ても立ってもいられない状況になり、
なんとか時間をやりくりしてデートに至る。

時差ぼけもなく元気な彼だ。

いつもとどこか違う。

つながったままの私を抱き起こして、
後頭部を支えて少し下を向くようにされると、
出入りしている彼が目に入る。
ちゃんと見てごらん。
そう言われているようで、
そんな状況にも、そんな彼にも激しく欲情する。




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ブルーのシャツ。


出張やその準備などで忙しく、なかなかデートもできなかった日々。
そんな中でも時差を気にしながらのメールのやりとりは楽しく嬉しかった。

ようやく逢えることになったその日、ブルーのワンピースを着て行った。
空色でもなく水色でもなく
少しだけ紫のニュアンスのある、白糸を絡ませたようなブルー。

現れた彼のシャツは同じトーンのブルーだった。
気持が寄り添っているような気がしてとても嬉しくなった。




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菜の花畑。


夜になってその日2度目のデート。
古いビルの4階にある店での夕食。
迷ってしまい、少し遅刻すると、先に到着した彼は
既にオーダーを終えてワインを手にしていた。

アルザスの白ワインをオーダーして、何が出てくるのか楽しみに待つ。
クレソンのアーモンドサラダ。
香りの強い恐らく野生のクレソンと春菊に、ローストアーモンドを散りばめ、
殆どオイルを感じない和え物のようなサラダ。
もりもり食べる草食系の私たち。

菜の花とホタルイカの黒酢ソース。
うどやこごみも入っていて美しい。

燗酒もいただく。
帆立の春巻き。ぱりぱり。

はまぐりのお吸い物。

最後のせいろを開けると、そこは菜の花畑。

外はまだ雪が残るけれど、春を満喫する幸せなひととき。




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画像と思い出。



けやき坂の横断歩道で東京タワーとイルミネーションを画像に収める。

随分昔、携帯電話もなかった頃、函館の坂の上から海に沈んで行く太陽を見た。
しばしば函館山に登り、明け方の街を見下ろした。
写真なんか撮らなくても、頭の中にその光景を焼き付ければいいと、
その時は思っていたのでけれど、今となっては思い出せない。

見えるものが全てではないし、その時の感情やら状況が
恐らく今の私を形作っている。

あとからキラキラした画像をそっと取り出して、
その時のキラキラした気持を思い出す。
秘密の飴をそっと舐めるように。

記憶は薄れてしまうとわかったから、
それを呼び起こす手がかりとして保険をかける。




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唇の記憶。


シャツのボタンをはずされる。
その素早さに驚く間もなく肩からするりと落とされて、
あらわになった首筋、肩に口づける。


彼にも衣服を脱いでもらい、胸に頬を押しつける。
素肌の温かな感触に安心しつつ、殆ど無臭な皮膚の匂いに欲情する。
唇で乳首の存在を確認し、湿度を与え、指でもまさぐる。

ショーツを脱がせて股間に頬ずり、キス。
愛おしい気持を込めて手と口でねっとりと愛撫する。
彼の手が頭に添えられるのが嬉しい。
遠慮がちにそっと頭に置くだけの手に、
もっと力を込めて欲しいと思うことがある。
本能のおもむくままに激しく動かして欲しいと。

しばらくすると、抱き上げてキスしてくれる。
唾液が混ざり合うのが気持良くて嬉しい。

ひと月振りの感触を、自分の皮膚や粘膜がきちんと記憶していて、
反応してしまう。
求め合っている事を感じられる、そのことも嬉しい。








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